海辺の展望台

 すこし前の寒い日、海に行った。車を停め、バルコニーが砂浜へと突き出したレストランに入った。こんな時期にわざわざ風に吹かれに海辺まで来る酔狂な客は少ないらしく、僕の他には一組のカップルが居ただけで、静かで安心した。
3つ離れたテーブルのカップルはなにやら人目を避けている風情で、観察するのも楽しめそうだったがそのために来たのではないので、背を向けて座った。

 朝食とも昼食ともつかない、サンドイッチとアイスコーヒーを済ませて、車はそこに停めたまま砂浜へと出た。
 風は強く冷たい。 あたりまえだ、こんな季節だもの。冬の海は、夏場のごみで溢れた砂浜ではなく、足跡ひとつない。潮が引いた後の刷毛で掃いたような模様を眺めながら砂浜を歩いた。いろんな海草や貝殻にまじって、空瓶が砂にまみれていた。
 「あなたは誰ですか。どこにいますか?」なんて書いた紙を入れて海に戻そうかと思ったが、こういう時に限って紙もペンありゃしない。

 しばらく歩いて貝殻を3つ、4つポケットに入れたあと、島のなかほどにある高台の公園へと向かった。駐車場には野良犬がいて、今朝の小雨で白い毛が濡れたままだ。「おいで」といってもじっと見つめるままで化石のように動かない。

 展望台に上がると、ずっと遠くに自分の住む街が見えた。あの街にたくさんの人が住み、今でもどこかに、もう会わなくはなったけど昔好きだった人たちが暮らしているんだなと思うとその街がもっと霞んで見えてしまう。
 それはきっと冷たい風のせいだ、そう思う。

感想をMasahiro Okuへ